中山くんと……
コンビニで
中山くんは、いつも会社帰りに決まったコンビニに寄る。
テレビガイドとデカプリン、メロンパンをレジに持って行く中山くん。
若いバイト店員「いらっしゃいませ」
顔見知りのバイトくんだ。
耳にズラっと派手なピアスをしている。ここまでくると、なんかの部族みたいに見えてくる。
中山「こんばんは」
店員「最近メロンパンばっかっすね。飽きなくないっすか?」
中山「飽きなくない?とは、飽きない…飽きるどちらの意味なんだ?」
店員「で、温めます?」
中山「人の質問無視かよ、無視」
店員「で、どうします?」
中山「何?」
店員「メロンパンっすよ。少し温めると、美味しくなくないっすか?」
中山「美味しくなくない? 美味しい…美味しくない、どちらの意味なんだ?」
店員「で〜どうします?」
中山「何を」
店員「温めっすよ」
キレている。
キレたいのは、こちらだと言いたい中山くんだが、相手は部族だ。槍で刺されたらおしまいだ。ここは、相手の言うことを聞こう。
中山「……じゃあ、少し」
店員「了解っす」
メロンパンをレンジに放り込む店員。
すぐにチン!
店員「まじでオススメですから! 」
温めたんだか、よくわからないが、触るとほのかに温かい感じがするようだ。
中山「…ありがと」
店員「で、どうします?」
台の上には、テレビガイドとプリンのみだ。
中山「は? あとは、プリンだし温めなくていいよ」
店員「違いますよ。肉まんとかおでんっすよ」
中山「あ〜もうそういう季節かあ」
店員「ですよねー、で、俺の今日のオススメは、大根と卵っすね〜」
中山「俺、大根はあんまり好きじゃないからな」
店員「あ〜俺もっすよ。大根より、はんぺん派っすね〜」
中山「じゃあ、はんぺんと卵」
店員「一個ずつっすか? 明日の朝の分と明日の夜の分とかは?」
中山「朝からおでんは、いかないかなぁ。明日の夜の分なら、明日買うし」
店員「ですよねー。じゃあ、肉まんは朝に回せばいいっすよ」
中山「肉まんかぁ」
店員「季節ものは、いっといた方がいいっすよ。いつ死ぬかわかんないし」
中山「縁起でもないこと言うね〜」
店員「ですよねー。万事了解っす」
中山「何が万事了解なんだ?」
店員「1536円になります」
中山「聞いてないよね。俺の言葉。しかし、結構、買ったなぁ。1000円で収める予定だったのに」
店員「で、どうします?」
中山「え? もう、何にもいらないよ」
店員「お支払いは現金ですか?クレジット?」
中山「あ〜現金で」
店員「ポイントカードはお持ちでしょうか?なければお作りしましょうか?」
中山「あるよ。いつもあるの知ってるじゃん。なのに、まだ、勧誘するわけ?」
店員「ですよねー。でも、決まり文句なんで」
中山「そこだけいつも律儀だよね。他は自由なのに」
店員「お箸は何膳おつけ致しましょうか?」
中山「1膳だよ。箸使うのは、卵とはんぺんだけだよ。1人で食う量じゃん。なのにまだ聞く?」
店員「スプーンは、ひとつでよろしいですか?」
中山「ひとつでいーよ。ひとつしかないんだから。俺は、ひとつのプリンを誰かと分けて食わないから。それほど、貧困じゃないからな。プリンひとつしか無いのに、スプーンの数まで聞くかね、普通」
店員「いや、世の中何が起こるかわかりませんから」
中山「何が起こるんだよ。プリンひとつにすごく大袈裟だな」
店員「テレビガイドは、このままでよろしいでしょうか?」
中山「え、袋に入れてよ」
店員「お言葉ですが、おでんの袋と一緒に入れると紙類は、濡れてしまいます。ひょっとすると汁が漏れてビショビショになる可能性もなきにしもあらず」
中山「だろうな。おでんと一緒に入れないでよ。分けて入れてよ。ビショビショだと読めないだろ?」
店員「ですよねー。そうじゃないかと思いました」
中山「なら、いちいち聞くなよ」
店員「決められてますんで〜はい、どうぞ」
中山「どうも」
やけにビニール袋が多くなったが、これは仕方ない。
毎日のこうしたコンビニ店員との煩わしい会話も実は楽しみにしている中山くん。
渡されたビニール袋を受け取り、コンビニを笑顔で出る中山くんなのでした。