中山くんと……
仕事場の中尾さん
中山くんと同じ仕事場に中尾さんという事務の女性がいる。

彼女と中山くんは、よく会話をする。
それには、中山くんなりの意図があるようだ。

だが、その会話は、大抵の場合、不器用に失礼なだけで終了するパターンが多い。

さて
今日は……?






中山「中尾さんって、字が上手いですよね」

中尾「そお?ありがとう」

中山「羨ましいです。字が上手いと、
例え頭が悪かったとしても頭が良さそうに見えるから」

中尾「例え頭が悪くてもって……いつもながら、かなり失礼だね、中山くん」


中山「そうでしたか、これはこれは失礼しました。人間誰しも得意なことの1つや2つありますもんね」



中尾「得意なことが1つや2つしかないと思われてそうだね、私」



中山「平たく言うと、そうですかね」



中尾「相変わらず、とても失礼だね。私だって、沢山あるのよ。得意なこと」


中山「え!え?例えば?」


中尾「そんな驚くかね? お料理も得意だし」


中山「ああ、だから、毎日、地味な色の組み合わせが多いお弁当なんですね」

中尾「地味な色の組み合わせで悪かったね。仕方ないでしょう。煮物とか多いとそうなるんだから」


中山「でも、絹さやとか彩りで入れれば渋い色にならないでしょうに」


中尾「毎回、絹さやなんか買ってられないよ。彩りの為になんか。野菜高いし」


中山「値段のせいですか?実は 面倒なんじゃないんですか?実は」


中尾「何がいいたいのよ、喧嘩うってんの?」


中山「本当は、お料理得意じゃないんじゃないかなぁって思いまして」

中尾「本当は、お料理得意じゃないわよ。悪い?節約のために弁当なのよ!悪い?」

中山「悪くありませんよ。節約しているのすごいなぁ〜と思いますし、中尾さんは、いい奥さんになるでしょうと思います」


中尾「褒めてんの、けなしてんの?」


中山「褒めてますよ。俺なりに」

中尾「褒められた気がしない」


中山「いつも、手作りなお弁当羨ましいです」


中尾「作れば?」


中山「んと、そうなります?」


中尾「は? どうなると思ってるの?」


中山「中山くんの分も作ろうか?とか」


中尾「あんたさ、それは図々しいでしょ。彩りがどうのこうのと文句まで言ったくせに」


中山「ですよねー、なんか言葉が微妙に下手くそでして。作って欲しいとか面と向かって言えないし」


中尾「は?作って欲しいの?」


中山「えぇ、しかも誰でもいいから弁当を作ってもらいたい訳じゃなくて」


中尾「誰でもいいんじゃないの?」

中山「中尾さんに作ってもらいたいとか夢にも言えないし」


中尾「言ってるじゃん、なんで私に作ってもらいたいわけ?」


中山「なんでって」

中尾「?」


中山「えっと、なんとなく」




中尾「そんなんじゃ、騙されないし、絶対に作らないから」


中山「とか言って?」

中尾「作らない」


中山「だけど?」

中尾「作らない」


中山「そうは言っても?」

中尾「作らない」


中山「粘るなぁ」




中尾「どっちがよ。作らないよ」


中山「でも、わかんないですよね。人間なんて。作りたくなるかもしれないし」


中尾「ならないよ」


中山「少しくらい、作りたくなればいいのに」


中尾「ならないよ」


中山「絶対に?」

中尾「絶対に」





中山「わかりました。今日のところは、男らしくスッパリと諦めます」


中尾「全然男らしくないし、スッパリしてなかったよね? 頼むから、ずっと諦めてね」



密かに肩をがっくり落とす
不器用な男 ブッキー中山は
今日も1人で
牛丼屋に行きましたとさ。

ちゃんちゃん








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