スーパー丸尾ブラザーズ

―郁の冬―

『俺、失恋したんだ』

たまたまだけど、兄ちゃんが名菜に話しているのを聞いてしまったんだ。

彼女に振られたんだろうか。振ったんなら『失恋』って言い方はしないよな。


それにしても兄ちゃんを振る女ってどんな人だったんだろう。俺が言うのもあれだけど、兄ちゃんには欠点がないから。

だから俺は、ムカついていたんだけどさ。


今日はクリスマスイブ。

去年は兄ちゃんが友達の家に泊まりに行ってて、いなかったんだよな。

今思うとあの時だって、きっと女といたのかもしれないけど。


名菜はあからさまに兄ちゃんに気を遣っている。さっきからチキンを兄ちゃんの方に回してあげてて、祥平がキレてる。


「なんで今日はふみ兄の味方してんだよ」

「ちい兄には秘密だもん」

「はぁ?意味わかんない」


……お気の毒。

兄妹の中では祥平だけが、兄ちゃんの失恋を知らないからな。

兄ちゃんも軽い気持ちで名菜にしゃべったらだめだろ。あいつはガキだから秘密を隠しきれてないんだぞ。

< 156 / 197 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop