アラビアンナイト
健太と涼介に両側から腕をがっちりホールドされたまま、入り口横の自動販売機コーナーへ連れて行かれた。
「おい、ありす、どうした?誰かになんかされたのか?」
何台かある自販機の前には長椅子が並べられていて、そこに座らせられるなり、目の前にしゃがんだ健太からの質問攻めにあった。
「ぅっく、ぇっく…」
さっきまで全力で走ってたのと、泣きすぎてるのとで息をするのが精一杯だったけど、1つだけ、どうしても急いで言っておきたいことがあった。
「ジェ、ジェイク…っく」
「ジェイク?あぁ、あの王子な。あいつと何かあったのか?」
健太が何気なく言った"王子"っていうフレーズに必要以上に反応してしまいそうになる自分がいた。
健太はジェイクが本物の王子だってことをまだ知らないから、軽い感じで言ったのはわかってるんだけど、それでも今の私の心には痛く刺さる単語だ。
それを振り切るようにフルフルと首を横に振りながら止まらない涙を手の甲で拭いた。
「ち、っちがう…でもっ、い、今は、今だけはジェイクに会いたく…ない」
なんとかそこまで言えたら安心して、また苦しいくらいにヒックヒックと喉が鳴った。