アラビアンナイト
キョロキョロと部屋の中を見回しながら驚く私を尻目に、父は声の主に向かって静かな声で返事をしていた。
『申し訳ありません、殿下。
愚息がつまらぬことを申し上げましたこと、どうかお許しくださいませ』
見ると、父が誰もいない空間に向かって深々と頭を垂れている。
『なっ、父上!今の声はなんなんですか!?』
『黙れ、セリム!殿下の前でこれ以上の無礼な態度はこの私が許さぬぞ』
押し殺した声で、しかし有無を言わせぬ怒りを含ませた父の言葉は、私から言葉を奪うのに十分だった。
殿下…?
父が殿下と呼ぶのは、サウード家の王子だけのはず。