アラビアンナイト


…ということは、先ほどの声はサウード王のご子息の声、それもこの部屋の主、ジェイク様の声か!?

そうなると父のこの態度も頷ける。

私は父に習って何もない空間に向かって深々と頭を下げると、早速自身の非礼を詫びた。

『た、大変失礼いたしました!殿下とはつゆ知らずっ』

だが、私の謝罪は途中で止められた。

『いいんだ。お前のことが知りたくてわざとやったことだ。
試すような真似をしたのは俺の方だ。
お前が謝る必要はない。それより顔をあげろ』

そう言われて恐る恐る顔を上げると、先ほどまで誰もいないと思っていた私の前に、堂々たる風格を漂わせた少年が1人立っていた。

体の大きさこそ私より小さいが、凛とした佇まい、鋭くも深い眼差し。

ただ見つめられているだけなのに、自然と背筋が伸びてしまうような緊張感。
目の前の少年が自分より年下だとは到底思えなかった。

”生まれながらの王” …… !!!

瞬時にそう思った。

昔、祖父に言われたことがあるのだ。

”セリムよ、よく覚えておけ。王になるべくして生まれた人間というのは、一目見ればわかるものだ” と。
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