アラビアンナイト
『で?何があった?』
あえてトーンを変えずに話し続ける俺を見たセリムは、ゴクリと喉を鳴らした後、神妙な顔つきで話し始めた。
『………というわけで、アリスさんはジェイク様が一国の王子であると知ったばかりでなく、私の言葉で相当傷ついてしまわれたと思われます。
おそらく今は、ジェイク様とご自身の関係のありように悩まれているのではないかと…』
俺のことを思ってか、言葉を慎重に選びながら話すセリムの歯切れの悪さにイラっとした。
『じれったいな。俺があの女生徒たちに言った「ありすに”王子の恋人として”の魅力がない」というのを、「”俺にとって”魅力がない」という意味にとられたってことだろ?要は俺の日本語がよくなかったわけだ』
イラっとした分、言葉が辛辣になった上に、これじゃ完全に八つ当たりだ。
頭の良いセリムのことだから、これが俺の八つ当たりだとわかっているはずなのに、
『そ、そんなことは…!』
大慌てで俺の言葉を否定してきた。
よっぽど自分の行動を失態として気にしているらしい。
確かにあの時は、ありすの俺に対する気持ちを確かめる前だったから、ありすと俺の想いが通じ合ったかどうかの質問にも曖昧にしか答えられなかった。
それに、俺が国に帰るときは、もちろんありすを連れて帰りたいと思っているが…それをありすが望まなければ無理強いするつもりはない。
俺の立場でありすを国に連れて帰れば、ありすが大変な思いをするのは目に見えている。
ありすの人生はありすのものだ。
俺の都合だけを押し付けるのは嫌だった。
だから、いずれ国に帰る時に別れるのか、という質問にも曖昧にしか答えられなかった。
だが、昨夜のありすの泣き顔の理由が、俺の曖昧な返事が原因かと思うと、あの時どうしてケンタの友人だという男の言葉を素直に聞いて引き下がってしまったのかと、自分に対しての怒りが湧くのを止められなかった。
おまけに今朝からありすに話しかけようとしても、何かと邪魔が入って話せなかったばかりか、山の頂上ではソウタとありすが手を繋いで現れた。
そんなことも思い出して、さらに怒りが抑えきれなくなった俺は、さらに言葉を被せてしまった。
『俺とありすの関係は、できれば日本にいる間だけのものにしてほしい』
鋭く睨みつけながら、セリムが俺とありすの関係として望んでいるであろうことを口に出した。