アラビアンナイト


でも、その私の空いている反対の手を奏太が掴んだ。

「ありすが行く必要はどこにもないんじゃない?ゆっくり座って食べなよ」

怖いくらい静かな声で奏太が言ったけど、

「ありすがいないとイミないから」

きっぱりとジェイクが言って私の手を引いて歩き始めた。

自然と奏太の手から私の手が離れた。

奏太のことは気になったけど、今ここでジェイクと一緒に行かなかったら後悔しそうな気がした。

だから、私は敢えて奏太の顔を見ないようにしてジェイクと一緒に席を離れた。

席を離れる時、チラリと視界の端に映った斧田さんは、すごく悔しそうな顔をして私のことを見ていた。

でも、どんな顔をされたとしても、何を言われたとしても、繋がれたこの手は離したくなかった。

私は顔をまっすぐ上げて、半歩前を歩くジェイクの背中を見つめた。
< 654 / 713 >

この作品をシェア

pagetop