君に話をしよう
1…文学少女
「愛海、来週のバーベキューなんだけどさ」


「え?」


突如声をかけられて、小宮 愛海(こみや まなみ)は本に挟みかけたしおりを落とした。


「大丈夫?」


「ありがとう…」


すかさず拾ってもらったそのしおりは愛海の宝物だった。


「綺麗だね、これ」


読書をいっさいしたことがない友達も、思わず手に取ったまま見惚れている。


「旅行に行ったときに買ったの」


「そうなんだぁ、あれ?愛海彼氏いたっけ?」


唐突な質問に愛海は苦笑いして答えた。


「いないよ。家族と行ったの」


「そっか…愛海に彼氏がいないのびっくりだわ。いかにも清純派でモテそうなのに」


「ははは…モテないよ…」


それしか答えようがなく、愛海は笑いながら眼鏡を拭いた。


物持ちは良いほうで、もうかなり長い間使っているものだ。


旅行の記念にしおりを買ったのも数年前だが、新品と言われても誰も疑わないだろう。


「好きな人とかもいないの?」


「んー……」


いないよ。


だって、なんか作っちゃいけない気がして。
心に鍵がかけられてる気がして。


「特に…いないな」


愛海は心の声が漏れないように単調に話した。


そう、心に鍵。気付いたのは、いつからだろう―――――
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