辛口ちゃん と 言葉足らずくん
episode1
辛口ちゃんの、いつもどおり。
「美和ちゃん、もう上がっていいよ!」
「まじっすか!」
注文を受ける声、フライが揚がった合図の音楽、ジュースを注ぐ音。賑やかなカウンターの中で、ひときわ大きい声を張り上げた。
「うん、人足りてるから。お疲れ様。」
「お疲れっす!!!」
挨拶を済ませ事務所へ戻ると、すぐさまキャップを取る。そしてペタンコになった、まるでポテトのような金色の髪をくしゃくしゃにする。
女子とは思えないような速さで着替えを済ませると、中学から使っている落書きまみれのスクールバッグを背負い、勢いよく裏口のドアを引いた。
「さむっ!」
冷たい風が肌を刺す。膝上のスカートがふわりと揺れると、広い露出部分に鳥肌が立った。
おまけに風は、ファストフード店特有の油の匂いを運んでくる。
高校に入学するのと同じタイミングでバイトを始め、もうすぐ一年が経つ。
だけど換気扇から出るその香ばしすぎる匂いには全く慣れない。未だに吸い込むだけで、胸焼けする。