辛口ちゃん と 言葉足らずくん
息を止め、小走りで向かうは駐輪場。
従業員専用のそこには自転車が6台、寂しげに並んでいた。
グラグラで取れそうな籠が風に煽られキーキー鳴いているのが私の自転車だ。
ここまで来たらもう匂わないだろう。
紡いでいた口を開くと、吐いた息は真っ白に色付いた。暗い夜空に広がるそれは、まるで雪のように空気に溶けていく。
こういう寒い日には髪の毛伸ばそうかな、なんて考えるけど肩に掛かるとすぐ鬱陶しくなるんだよね。
冷たくなった首元に手をやると一息こぼし、錆び付いた自転車にまたがった。
ペダルに乗せたローファーは傷だらけで、その上かかとの底がは外れかけている。正直、もう替え時だと思う。
だけど私は、卒業までコイツを履き続ける。
ペダルを思い切り踏んだ。
背中にスクールバッグを弾ませながら、可哀想なローファーで自転車を漕ぎ進める。
静かな道にはキーコキーコとおんぼろ自転車の鳴き声が響き、視界の端では等間隔で並ぶ街灯が流れていく。
相変わらず冷たい風は、夜に反抗するかのような金髪をなびかせる。