できちゃった出産【ベリカフェ版】
 そんなこんなでしたが、中の人はどうにか脱出してきました。新生児担当の看護師さんが「男の子さんですよー」と見せに来てくれたとき、私が最初に発した言葉は――「やっと会えたね」でした。でも、勘違いしてはいけません(苦笑)「会いたくて会いたくて仕方がなかった待望の赤ちゃんにやっと会えた♪」みたいな、ふんわりキラキラなニュアンスとは少々違うのです。

 なんだろうなぁ、ずっとオンライン上だけで交流していた友達とオフで対面した、みたいな? 「ああ、君が……」ってな感じですかね。池袋のふくろう前あたりで待ち合わせをしていて――。

「あ、ひょっとして……“妖精さん”ですか?」

「ちさとさん、ですか???」

「どうも。“はじめまして”でいいんですかね(苦笑)」

「ずっと知り合いではありましたけどね(苦笑)」

なんだかうまく言えないんですか、こういう不思議なぎこちなさを感じました(苦笑)。

 カンガルーケアはどうにかできましたが、“中にいた人”はやや呼吸が弱かったので保育器へ。看護師さんは「“箱入り息子”になりますけど心配ないですよー」と笑っていました。夫は……夢中になって写真を撮っていたかな?(うろ覚え)。

 まどかちゃんも「少しだけなら」と中へ入れてもらえたんですけどね。「おめでとう」と「お疲れ様」とともに彼女の口から出た言葉は――「ずっと静かだったから。いきなり赤ちゃんの泣き声がしてびっくりしたよ!」でした。

 そうなのですよ……。私、叫ぶことなく出産を終えたんです。これね、決してカッコつけてたとかじゃないんですよ。だって、「想像を絶する痛さ」というのは話で聞かされてはいましたが、実際の度合いなんてわららないじゃないですか。

だから「痛い」と思っても、「いやいや、これはまだ序の口に違いない」と我慢して。さらにまた「痛い」と思っても、やっぱり「まあ待て、餅つけ(落ち着け)。これからもっとすごいビッグウェーブが来るに違いない」と我慢して。その結果、いつの間にか終了していたというわけです……。

 そんな私の状況はというと――けっこうな深手を負って出血多量……。え? ステータス表示のカラーですか? そりゃあもちろんオレンジ(瀕死)ですよ……。クエストクリアのために、なりふり構わずでしたから……ゴホゴホッ、グフッ。

そして、貧血とは無縁の人生を歩んできた私でしたが初めてそれを体験し、車いすで病室へと運ばれたのでした。

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