できちゃった出産【ベリカフェ版】
 Tさんって、一見するとおっとりとしていて柔らかい印象の人なんですけどね。私はずっと「クールだなぁ」と思っていました。冷たいということではないですよ。なんていうのかなぁ、妙に熱くならない感じに私は信頼を寄せて安心を感じていました。

 例えば――子どもを可愛いと思えないというモヤモヤに対して「大丈夫!そのうち可愛いって思えますって!いいえ、思いたくなくてもそうなっちゃいますから!」みたいな答えを返さないあたりとか(笑)。

 母親の中には、未婚で出産・子育ての経験のない女性が適切なアドバイスをできるのかと不安(不審)を抱く人もいるのかも。でも、私にとってTさんは専門職としての客観的な視点をもった信頼できる保健師さんでした。

 自身の個人的な経験や、それにもとづく「勘」に頼ったアドバイスって、場合にっては我流の押し付けになりかねません。その点で、Tさんはまったく違いました。専門職として当然といえば当然なのでしょうけれど、「自分のときは――」という経験談がないかわりに、いつだってタイムリーな適切な情報を提供してくれましたよ。

 こういってはなんですが――自治体の専門職(保健師、助産師、歯科衛生士……)の人たちの中には、ずーっと昔からのやり方をそのまま続けっぱなしみたいな人もいますからねぇ。「おやつにはキュウリやニンジンを与えなさい」と豪語する古株の歯科衛生士さんとかね(苦笑)。現代の実生活に即していないアドバイスも多々受けましたとも。

 そういった中で、Tさんはすごく勉強している感じがしました。仕事に熱意と誠実さがあって(おそらく愛情も……)。息子のことを「この子」ではなく「彼」と呼び、私のことを「お母さん」ではなく「ちさとさん」と呼んでくれるTさん。Tさんのその繊細さが好きでした。

 訪問していただく頻度は減りつつも、Tさんには息子が幼稚園に上がる前までお世話になりました。私、またまたやっぱり思うのです。自分は運がいい、と(笑)。Tさんが私が住んでいる地区の担当だったことも、異動もなく続けてずっとフォローをしていただけたことも。

 やっぱり相性ってのもあるでしょうからね。言葉の選び方って、知性や思いやりによるところが大きいとは思うんです。でも、「この人の話し方が好き」と思うかどうかは互いの「感性」の問題なのかなと。

 Tさん、きっと今も保健師さんとしてたくさんの人に力になられているのでしょうね。小学生になった息子の姿を見てもらいたい気もしますが……。再会したら、きっと――私は泣いてしまうでしょうね(泣笑)。

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