部屋に出るもの
部屋に出るもの
「あの部屋、出るみたいなの」
しおりからそんな相談を受けたのは、水曜日のことだった。
しおりは同棲していた男の暴力から逃れて、小さなアパートに引っ越したばかりだった。
そこは都心から離れた場所にある1DKの部屋で、家賃も割安だった。
ところが、引っ越した当初から、どうも夜寝苦しい。
部屋の中に、自分以外に誰かいるような気がする。
なにか憑いている部屋なのかもしれない、と思った。
オカルトの本で読んだことを参考に、部屋の隅に盛り塩をしてみたが、効果はない。
そのうち、都内の大学へ通う妹さんが泊まりに来た。
なにかいるかもしれない、ということは教え、布団をならべて寝た。
その晩も寝苦しかったが、とりあえずは眠った。
朝起きると、妹さんの様子がおかしい。
――ゆうべ、なにかあったの?
と訊いたが、
――なにも。
としか答えない。
なにかを隠しているように感じられた。
(もしかしたら、妹は幽霊を見た。でも、あたしを怖がらせまいとして、嘘をついてるんじゃないかしら)
と、しおりは想像した。