部屋に出るもの
目の前に、女の顔があった。
歳は二十代のなかばくらい。ショートヘアの、ととのった顔立ちの女だ。
その女がうつ伏せの姿勢でふわりと宙に浮かび、あたしの顔をのぞきこんでいる。
人間の女ではなかった。
女の体は半分透きとおっていて、天井の板が透けて見えるのだった。
あたしは思わず起き上がろうとした。
体が動かなかった。十代のころによく経験した金縛りにかかっていたのだ。
それでも目だけは動いた。あたしはしおりに助けを求めようと、となりに目を向けた。
すると、しおりの上にも宙に浮かんだ女がいて、同じように、しおりの顔をのきこんでいるのだった。
そちらは髪の長い、はかなげな感じの女で、垂れた髪の先がしおりの顔に届きそうになっていた。
服は白っぽい洋服で、フリルのついたブラウスと、すその長いスカートをはいている。
あたしが体を動かそうともがいていると、あたしの上の女がゆっくりとおりてきた。
顔と顔がぶつかりそうになる。
キスしようとしているのかと思った。
そうではなかった。
女の顔も体もさらに沈んで、影のようにあたしの中へと入ってきた。
ふわ、と花の香りがした、と思ったときには、あたしの体はもう女に乗っとられていた。