僕の失恋した理由




「さっむ」



思わず口から出た言葉は、すっかり紺色なった空に飲まれる。


と、館外にある庭のベンチに人が座っているのが目に入った。


こんなに寒いのに、何してるんだろう。
気になった俺は後ろからそろり、近付いた。


座っているのはショートカットの女性で、上着には薄いカーディガンを羽織っているだけ。
見ているだけで、体感温度が下がった。


何この人、風邪ひきたいの?
心配になった俺はその女性の前に回り込む。


…泣いてる。


女性の目には薄っすら、涙が浮かんでいた。


美人だとか、そういうのじゃなくて。
でもなんでだろう、わからないけど、綺麗。


ぽたぽたと、頬を伝って顎からひっきりなしに落ちていくそれに「氷柱できそう」なんて、無神経な俺は笑って言った。


だけど彼女は怒ることなく、涙を拭いながら
「それは困る」って。笑った。


ベンチの後ろの木に巻きつけられた青いLEDライトは、ちらちらと切なく光っている。


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