溺愛されてもわからない!
「一夜はいい奴だよ。優しくて繊細で」
繊細って
田中さんも言ってたな。
「あいつのお父さんもいい人。そうか再婚したんだ、よかったね」
「うん。あんな家だけどみんな優しい」
和彦さんも月夜も
田中さんも組員さんも
とってもみんな優しい。
「転校生が優しくていい奴だからじゃない?」
「私?全然よくないよ」
「いいと思うけど」
水無月君はちょっと恥ずかしそうにそう言って
立ち上がって背筋を伸ばす。
大きい身体がもっと大きく見えるね。
小柄な私はスッポリ背中に隠れそう。
「もう転校生じゃないよ私」
「そうか。それじゃ何て呼ぶ?みんなみたいにタヌキちゃんでいい?」
「え?タヌキちゃんって呼ばれてるの?」
ガラガラと自分の中で何かが崩れる。
タヌキちゃん……そうなの?
一応みんな『すみれ』って呼んでくれるけど
裏ではタヌキちゃんなのね。
ひざが崩れる。
「一部の奴らな」
笑って言われた。
一部ではそう言われてるのか
まぁ仕方ないね。