溺愛されてもわからない!

まずは広すぎるリビングに通され
白いソファと大きなテーブル
大きなテレビに圧倒。

じゅうたんがフカフカしてる。

そして
ここでも黒いスーツの男の人達が数人いて、美味しい紅茶とお菓子を運んできてくれた。

私とお母さんは緊張しながら口に運んでいると

背中からパタパタと可愛い足音。

「おとうさん。おかえりなさい」
わんころのような素早さで小さな影が走り、和彦さんの腕にジャンプした。

柔らかそうなフワフワ前髪から、大きなおでこが覗いてる。
くっきり二重でプニプニほっぺ。
何歳だろう。5歳ぐらいかな。

車の中で和彦さんが教えてくれた。

『男と逃げた妻の間に、男の子がふたりおります。邪魔かもしれませんが、仲良くしてやって下さい』と……。

私もお父さんに捨てられたので
境遇がまったく同じだもん。
私達の方が邪魔かもしれない。

失礼だけど
和彦さんに似てなくて可愛い。

「年長さんの月夜君ね。はじめまして椿です。いくつ?」
お母さんが優しい声を出すけど
恥ずかしそうに顔を和彦さんに埋めて返事をしない。

月夜(つきよ)君って言うんだ。
キラキラネーム。

照れる仕草が可愛いなぁ。
和彦さんに『挨拶しなさい』って言われても、顔を上げずにしがみつく。

困った和彦さんの元に「失礼します」って大きな怖い顔した男の人が居間の奥からやってきて、何やら耳打ち。

「……わかった。椿さん。申し訳ありません急に仕事が入り……」

「和彦さん……」

見つめ合う
見つめ合う。

てか
見つめ合いすぎる!
いい大人がいい加減にしなさいっ!






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