溺愛されてもわからない!
「仕事は……後にして……あ、月夜。お姉ちゃんをお部屋に案内してくれ。お前の隣の部屋だ」
和彦さんはお母さんと見つめ合いながら、乱暴に月夜君を腕から下ろして私に向ける。
早くお母さんとツーショットになりたいって顔してるよ。
月夜君はブスッとしながら私の前にやってきた。
近くで見ても可愛い。
「月夜君、初めまして。すみれって言います。色々教えて下さい」
幼稚園児に頭を下げると
月夜君は走って階段を駆け上がる。
「待って―」
私は放置されたら困るので、荷物を抱えて走って月夜君を追いかけた。
大きな階段を走り
また広い廊下を走り
突き当たった場所に月夜君は立つ。
窓ガラスの奥に満月が輝いていた。
名前の通り月夜だね。
「速いんだね」
多少、息を切らして笑顔でそう言うと
「おっせーんだよブス」
って
言われた。
え?ブス?私?
てか
月夜君が言った?空耳?
長距離ドライブだったから耳鳴りとかしてた?