溺愛されてもわからない!
扉からノックの音がしたので
「はーい」と返事をして横になっていた身体を起こすと
金髪運転手の田中さんが「失礼します」と入って来た。
緩んだネクタイがよくお似合い。
「お疲れでしょうか?ご夕食の用意ができております」って直立不動の超低姿勢。
年上の人に低姿勢されるのって
くすぐったくて嫌な感じ。
「あまりお腹空いてないので、私はいいです」
ご飯より寝たい。
「わかりました。夜中でも食べたくなったら、何でも用意いたしますので命令して下さい」
命令って……。
「お風呂も先ほど一夜さんが終わったので、今は空いております。いつでもどうぞ」
ヤツは風呂上りだったのか
どーりで上半身裸族。
「何かありましたらお呼び下さい。椿姐さ……じゃなくて椿さんも後から様子を見に来るって言ってました」
田中さんはこんな小娘に頭を下げ、部屋を出て行こうとしたので私は引き止める。
「田中さん。あの……和彦さんは金融業をしてるって言ってたけど……あのーもしかしたらー」
私の言葉に田中さんは固まる。
「このセキュリティ。事務所の大きさ。たまに聞こえる話の内容。幼稚園児の態度の悪さ」
スラスラと口にすると
田中さんは「うっ……」と、言葉に詰まっていた。