溺愛されてもわからない!
「今の話って何?」
何か嫌な雰囲気の話で気になってしまう。
田中さんは渋い顔で知らん顔しようとしてたけど、あまりにもしつこい私に負けたのか、誰もいないひっそりとしたリビングでタメ息混じりに話をしてくれた。
一夜の婚約のお話。
「婚約?だって私達ってまだ16だよ」
「月夜ぼっちゃんにも話がきてますが」
幼稚園児に?いや何それ!
「うちの組長は仕事ができて人望も厚く、本当に素晴らしい方なんです」
夜のリビングで田中さんの目が輝き力説。
はいはい。田中さんは組長を本当に大好きなのね。
ありがたいねお父さん。
「だから繋がりを持ちたいという、同じ職種の方々も多くて……そんなお話がよくあります。うちの組長は『先の話はまだわからない。自分でこの組は終わるかもしれない。子供達には好きな道を選ばせたい』そんな方針なのですが、関東でも力をつけてきてお偉い皆さんにも可愛がられてるので、できれば皆さんの意見としては一夜さんが後を継いで欲しいと願ってます」
一夜の気持ちはどうなんだろう。
もう高校に入った時から、将来の進路を決めてそれを目標として選択科目とか決めるんだけど、まだ決まらない人達だっているんだよ。私だってまだ正直未定だもの。田舎に住んでた時は役場の臨時職員でもいいなって思ったけど、今は都会に出て来て色々迷ってる。調理系にしようか介護系にしようか決められない。
「うちには月夜ぼっちゃんもおりますので、もしかしたら月夜ぼっちゃんが継ぐかもしれません。将来の事はわからないので、一夜さんの婚約の話も断ってました」
「だよね」
「でも、一夜さんがそんな気持ちになってくれたのなら、また話は変わってきます。私達には嬉しいお話なのですが……すみれお嬢さん。時間のロスです続きをやりましょう」
田中さんに話を戻され
またノートに目をやるけれど
婚約という2文字が頭から離れなかった。