溺愛されてもわからない!
「可愛い子だね」
和彦さんがデレっと言うと月夜もうなずく。
だまされてろ。
「あんなお姉ちゃん欲しいなぁ」
月夜が言うから
すれ違いざま月夜の耳を引っ張って、お母さんに怒られた。
「散歩に行ってきます」
逃げるように玄関を出ようとすると
足音もなく背中から誰かがやって来て
振り返ると
田中さんが立っていた。
さすが若頭
気配を無くすのがお上手。
「外は寒いです。上着を持って来ましょうか?」
「いらないです」
うつむき加減の私をジッと見つめる田中さん。
心配してる?
「少々お待ち下さい」
田中さんは長い足で素早く事務所に向かい、また素早く戻って来た。
人間じゃない動きだわ。
「これをどうぞ」
持って来てくれたのは
田中さんのニットカーディガン。
手にすると、あったかい。
「すみれお嬢さん」
「はい」
「元気で笑顔のすみれお嬢さんが、うちの組の財産です。元気出して下さい」
「……はい」
半泣きでそれを着て
外に出る私。
なんかもう……あーぁ……。