溺愛されてもわからない!

「あまり食べ過ぎたら、映画館で寝ちゃうかも」
一夜の視線を遮るように
彩里ちゃんは大きめな声を出し、自分の方に振り向かせた。

「映画に行くの?」

「うん。ベタベタな恋愛映画、彩里さんが観たいって」

「ベタベタってひどい」

一夜が映画館で寝るかも
寝たら彩里ちゃんに襲われるよ。

ツーショットで盛り上がる2人。
他の店でもよかったのに
心の中でブツブツ言いながら
食事を終わらせた2人の前にコーヒーを出すと、一夜のスマホが震えた。

「うちの和彦さんからだ」
さりげなく言うと
田中さんの身体もさりげなく微妙に固くなる。

よく聞こえるね
地獄耳の若頭。

「ちょっとゴメンね」
一夜は彩里ちゃんに言い
席を外して一度外に出る。
そして田中さんは自分の前に座っていた組員さんを、クイッとアゴで指図し、外に出た一夜の後を追わせた。

若頭に休日はあるのだろうか
年中無休だな
仕事大好き人間というか
組長大好き人間なのだろう。

組員さんの後姿をボーっと見送ってると

「すみれちゃんって彼氏いるんだよね」
店の温度が下がるような低い声が、お嬢様のプルプルピンクな唇から出る。
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