溺愛されてもわからない!
身体中が震える。
世界中で私ひとりぼっち。
カウンターの中で私は大きなテレビを観ている気分。
可愛い女の子がイケメンに抱きついて甘え
イケメンは女の子を優しくなだめ
その横で
人のよさそうなおばさんが心配そうにタオルを持って見守り、店内のお客さんは遠巻きに騒ぎを眺める。
これは
どんな物語なのだろう。
いじわるな店員が全部悪いのだろう。
店員はクビになり
女の子は彼の胸に抱かれて、彼は彼女を心配して愛しく想い、ふたりは昨日より距離を縮める。
そんな純愛の物語。
「すみれちゃん。謝って」
一夜の冷たい声が私の耳に突き刺さる。
「ご……ごめ……」
ごめんなさい
その一言で全て丸く収まるだろう
でも
でも私は何もしてない。
素直に言葉が出なくて苦しんでいたら、スッと金色の髪がまっすぐ私達の前に立つ。
田中さん。
「一夜さん。すみれお嬢さんは何もしてません。彩里様に手を出してません。自分は見てま……」
「すみれちゃん。彩里さんに謝るんだ」
有無を言わせぬ迫力
いつもの優しい顔が怖い顔に変わる。
お父さんに似ている。