溺愛されてもわからない!
「一夜さん。すみれお嬢さんに罪はありません!」
「黙れ田中」
「しかし……」
「下がれ」
怖い……誰にも逆らわせないオーラを持った一夜。
田中さんを下がらせ
一夜は怖い顔で私に迫る。
「彩里さんに謝るんだ」
一夜が白と言えば白だし
黒と言えば黒の世界。
これはきっと
お父さんの世界と一緒。
お父さんの後を継ぐ人。
「彩里さんごめんなさい。ケガはありませんか?本当にごめんなさい」
私は頭を深く下げ
彩里さんに謝った。
「映画の前に服を買いに行こう。一緒に選んで僕が買うよ。さぁ行こう」
「怖かった。うん、早く行きましょう一夜さん。すみれちゃんから離れたい」
頭を下げたまま
ふたりの会話を聞き
扉の外に出たのを見計らい、そっと顔を上げると、田中さんが悔しそうな顔で私を見ていた。
「ありがとう田中さん」
涙がポロッと流れたのを
おばさんがタオルで受け止めてくれた。
悔しさはなかった。
ただ
悲しかった。