溺愛されてもわからない!
だから何度も言われてたのに③
大騒ぎしたのに
おばさんは何も言わず
普通通りに過ごしてくれた。
それがホント申し訳ない。
バイトが終わり
今日は黒のアウディの後部座席。
今日は車でよかった。
歩いて帰ったら
きっと家に帰りたくなくて放浪しちゃうかも。
今なら京都とか大阪まで歩けそう。
「すみれお嬢さん」
運転席で田中さんが私の名を呼ぶ。
脳内家出を見透かされたようで焦ってしまう。
「一夜さんを責めないで下さい」
切ない声だった。
「一夜さんはわかってます。すみれお嬢さんがそんな事をするわけないって。でも、彩里様の手前……どうしても……その、すみれお嬢さんに謝ってもらわないと、引っ込みがつかなくなって苦しい決断でした」
「だったら……いいけど」
自虐気味に笑ってしまう。田中さんは私をなぐさめてるんでしょう。ありがとう。
「そして素早い決断でした。今から考えると最適な方法です。事実を言うと彩里様はもっと怒ってすみれお嬢さんに当たり散らし、お店にも迷惑をかけます。さすが一夜さんです」
「……はい」
「今日の事は気にせず、すみれお嬢さんは何も悪くありません。被害者です。でも、よくあそこで頭を下げました。素晴らしい」
「あはは」
乾いた笑いしか出ません。