溺愛されてもわからない!
もう
凄かったと。
夢君から電話を取った一夜がお父さんに連絡して、夢君が青ざめた顔で家に来て、繋がらない私との電話を何度も一生懸命繰り返し、お父さんと田中さんは鬼のような顔で家に戻って、組員さんを集めGPSで場所確認。そしてすぐ夢君と一夜を連れて殴り込み。
お母さんは不安そうな月夜をずっと抱きしめ、無事を祈っていたという。
そして
「和彦さんも田中さんも、もちろん夢君もみんなも心配してたけど、一夜君が一番、不安で動揺していたと思う」
お母さんは上品なカゴバスケットからリンゴと果物ナイフを取り出し、手を動かしながら微笑んでそう言った。
「一夜は『お母さんが一番心配してた』って言ってたよ」
「そりゃぁ母親ですもの。でも、いつもクールな一夜君があんな顔するなんて、とっても驚いた」
「そうなの?」
「ええ。あんな顔は見た事ない。必死で自分が壊れるのを抑えてるような顔だった。すみれが心配でたまらない顔」
「そうなんだ。私は彩里さんの件で、私は一夜に嫌われてるって思ってたよ」
「それは違う。一夜君はすみれが大好き」
お母さんは手際よくリンゴの皮をむき、私に「はい」ってひとつ渡してくれた。