溺愛されてもわからない!
「ちょっとごめん」
一夜は立ち上がり
部屋の照明を点けて驚いた顔で私を見る。
「えっ?」
「えっ?」
ふたり
シンクロに変な声。
「ちょっと待って、すみれちゃん。最初から話して『さよなら』って?」
「えーっと」
最初から最初から
話し忘れてたのは……そう
「大事な話を忘れてた。そうなんだよ、雫さんが来てくれて、すんごく私を心配してくれていて、謝ってくれたの。嬉しかった。本当はすぐ仲直りしたかったけど、つい意地張ってごめんって……」
「そこじゃなくて!」
目が怖い。
せっかくのイケメンが怒ると台無しよ。
「えーっとえっと」
獲物を追いつめる動物みたいな顔してるし。
そんな顔されるとこっちが焦っちゃう。
「……担任の先生が来て」
「違うって!夢の話だろう。あんなにすみれちゃんが大好きな夢が、自分からさよならなんて言うわけない。何があった?つまらない事でケンカした?」
真剣に聞かれると
何て言っていいのかわからない。
「僕に言えない?」
言えない。
一夜が好きって自分でわかったけど
それは
今さらな話で
彩里さんがいるのに
もう遅いでしょうって事実。
そして
あんないい人の夢君に
自分の勝手で『ごめんなさい』して
落ち込んでるって
言えない。