溺愛されてもわからない!
「あら、すみれちゃん早いね」
菅原商店のおばさんが店先にいて
私を笑顔で出迎えた。
いつもニコニコ
縦も横も大きくて優しいおばさん。
「こんにちはー」って
口だけの挨拶をして店に一歩入り
民宿に繋がっている奥の部屋を見ると
お母さんが楽しそうに
ひとりの男の人と話をしていた。
噂は本当だったんだ。
目つきの鋭い
大柄で怖そうな男の人。
白いシャツが眩しい。
お母さんの笑顔も眩しい。
ジッと見てると
おばさんが私の腕をつかんで店の外に連れてった。
「あの人が噂のお客さん?」
おばさんに聞くと
おばさんはうなずいてから私の顔を覗き込み
「邪魔するんじゃないよ」って私に言った。
「邪魔って?」
「お母さんが楽しそうに笑ってるんだから、たとえ娘でも邪魔しちゃダメさ」
「邪魔しないけど、あの人誰?」
「うーん。おばさんの息子の先輩の友達?よくわからないけどさ、息子がお世話になった人で、しばらくここに置いて欲しいって言われたの。すぐ帰ると思うけど。すみれちゃんのお母さんと話が合うらしくて、お母さんと話をする時だけは楽しそうなんだよね。お母さんも楽しそうだから、たまに若い男と話すのもいいだろう」
「よくわかんない」
「まぁ、すぐ帰ると思うけど」
私はもう一度
店の奥に目をやると
お母さんはまだ笑ってた。
とっても可愛い笑顔だった。