溺愛されてもわからない!

「すみれさん」

男の人は私に向かって
怖い顔をもっと怖くする。

「はいっ!」
生徒指導の先生より怖い。
イノシシより別の意味で怖い。

「自分はこんな男だけど、椿さんを愛してる。心から愛してる。だから結婚したい。椿さんとすみれさんを一緒に家に連れて帰りたい」

「はっ……はい」

「もし、すみれさんが反対するのなら」

和彦さんはいきなり自分のカバンから大きな包丁を取り出した。

怖い怖い怖い。
刃物怖いっ!

「指を詰めます」

「なんでー?」

「それが仁義です。指を詰めて許してもらいます」

わかんない。その理屈がわかんない。
ジンギって何?ゲームの新技?

和彦さんは包丁を私の目の前に見せてから、お母さんにも見せる。

いやお母さん。そこで止めてよ!

そして和彦さんは私を無視して、口を使って器用に細い紐で小指の付け根をグルグルと巻いて、変な準備するものだから私は焦るだけ焦り


「やめて下さい。結婚していいです。どこへでも行きます」って言ってしまった。


和彦さんは包丁を落し
感動しながら私とお母さんを抱きしめる。

「苦労はさせない。自分が二人を守ります」

「和彦さん」

ドラマな彼氏と彼女は泣き崩れ

私は自分の言った言葉の重さに、押しつぶされそうになっていた。


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