溺愛されてもわからない!
「椿がさぁ」
月夜の口から、いきなりお母さんの名前が出て驚く私。
「椿が……俺が行かないと寂しいんだって。俺が行かないと自分も行かないって言うからさぁ、女ってワガママだよな」
タメ息混じりで言う幼稚園児。
月夜。可愛いとこあるじゃん。
あれだけ拒否ってたのに
お母さんの存在を認めつつあるな
ここでこじらせたら大変だ。
ここは私が引かねばならん。
月夜を引き留めるのはやめよう。
ガッカリ。
私が黙ると
「すみれも俺がいなくて寂しいのか?」
丸い目をして聞かれてしまった。
だから素直に「うん」って返事をすると、月夜は悩みながら机の上から怪獣を渡してくれた。
「これ貸してやる」
「ありがとう」
「抱いて寝ろ」
「ありがとう」
グロい顔したモモンガみたいな怪獣。
ついでに爪が鋭くて
シッポもあってトゲトゲしていて
耳もトゲトゲしていて
抱いて寝たら凶器で出血しそうだけど
気持ちが嬉しい。
ありがとう。