ダブルベッド・シンドローム
私は社長のお願いごとというのに見当がついてきてしまって、それを承諾するか否かを先に頭の中で考え始めていた。
それを考えるにあたり、私の都合だけではなく、どうしたって慶一さんのことを一番に考えなければならなかったのだ。
慶一さんはまだ、取り残されたままでいる。
私を愛すると決めてくれたけれど、彼が本当に洞窟に迎えに来てほしかった人は、私ではない。
「・・・社長。」
「君が話してくれないか。慶一に。」
「・・・そんなこと、」
「君にしかできないよ。私の言葉では、正しく伝えることができないんだ。慶一は、まだ彼女が出ていった日のまま、そこで時が止まってしまったままでいるんだよ。その時を動かしてあげることなんて、とても私の力ではできないと悟ったんだ。お願いだよ、慶一のことも、救ってあげてくれないか。」
「社長・・・。」
今度は私が、彼を、迎えにいく番なのだ。
私は社長の涙を見て、そう思った。
同じ涙が、きっと慶一さんの心の奥にも、仕舞い込まれたままだから。