ダブルベッド・シンドローム
ユリカの要約は、つまり私の言いたいことに間違いはなかったけれど、少しだけ要点は違うところにあると感じた。
それを自分でも上手く言い表せないが、言い表さなければただの自慢話になってしまうので、寝起きの頭をフルに使って、言葉を並べた。
「そういうことだけど、でもね、それって恐いと思うんだよ。恐いというか、不安なの。慶一さんには慶一さんの生活の仕方があって、それは毎日狂わないほど意味があることなんでしょ。それがなんで、出会って何日も経たない私なんかのために変えられるの。おかしいでしょ。」
『菜々子に好かれたいんじゃない?親の決めたこととはいえ、結婚するんだし。』
「もう多分好きだよ私は。顔見たときから。」
『じゃあいいじゃん。』
「良くないよ。不安だよ。これじゃ対等になれてる気がしないのよ。親の決めた結婚、って域をいつまでも出ないんじゃないかって。」
ユリカに反論する形でそう言ったところで、これが自分の抱えていた、モヤモヤとした不安の正体であることにやっと気がついた。
堕落していくことを危惧していることも事実だが、夢見た「結婚」というイベントなのに、その相手は事務的に付き合っているだけだったとしたら、その方が恐怖である。
すると、電話の向こうで、ユリカの少し色っぽいため息が聴こえた。
『あのね、私がわざわざ看護師になって、わざわざ院内で血眼になって結婚相手を探したのはなんでだった?』
「お医者さんと結婚するためでしょ?最初からそう言ってたじゃない。浜田先生には唾つけてるからって、同僚だった私にも口酸っぱくして。」
『そう。玉の輿に乗るためよ。忙しくてお金持ちの相手と結婚して、自分は好きなことをして暮らす。それが理想の結婚なのよ。それができるなら、私は何だってよかったんだから。』
あまりにも、浜田先生が可哀想に感じたが、ユリカはこうは言いつつもやることはしっかりとやる人であった。
同僚時代から、職場を婚活イベントと言い放っていたけれど、誰より勉強家だということも事実である。
実際、現場でユリカに何度も助けられたから、浜田先生は彼女に落ちたのだ。
浜田夫婦は私には、玉の輿であっても、恋愛として、結婚として「対等」であるように感じられる。