ダブルベッド・シンドローム
愛情
─浜田先生の声を、二年ぶりに聴いた。
最近、ユリカと話したのは、「働こうかな」と、彼女に似合わない話をしたときが最後になっていた。
それからは、電話に出ることはなく、携帯に残っているはずの着信にも折り返してこないのだ。
そろそろユリカに報告したいことがパンクし始め、私は進まない荷造りの手を止めて、また彼女の携帯に電話をしてみた。
しかしまた、出なかった。
私は心配になって、仕方なく自宅の電話に掛けてみたのだ。
『はい、浜田です。』
二年ぶりに聴いたその声は、電話越しのせいか、別人のものに思えた。
比較的、もとから高いその声は、電話を通すと、よけいにそれが強調されていた。
浜田先生は、ユリカと結婚したこの二年で、何か変わったのだろうか。
「浜田先生、ですか?あの、宮田です。おひさしぶりです。」
『え、宮田さん?うわぁ、ひさしぶり!』
彼が電話に出ることは、私にとって全く予想外のことであった。
彼しかいないと分かっていたら、私はきっと、自宅に電話など掛けなかっただろう。
この二年間、私はわざと、浜田先生と連絡をとることを避けていたのだ。
「あれ、今日はお休みですか?」
『うん、明けだよ。ユリカなら、出掛けてるみたいだよ。携帯に連絡してみたら?』
「携帯に出ないんですよね。・・・あ、もしかして、ユリカ、もう勤め始めたんですか?」
『え?勤め?』
先生の返事から、ユリカはまた働きたい、ということを一切話していないということが分かり、私はすぐに「いえ何でもないです」と付け加えた。
『宮田さん、どう?元気?あ、彼氏とかできた?』
「はは、まあ・・・。」
『そっか~。』
ユリカは先生に、何も話していないのだろうか。
もう先生と、近況を報告することでさえ、億劫になってしまったということなのか。
ユリカのことだから、誰と結婚しても満足はしないだろうと思っていたが、私はこの電話で初めて、ユリカと先生の仲を不安に思った。