ダブルベッド・シンドローム
親元からお預かりしている、という意味では、私も同じであった。
社長に対して、専務に構うなと言い放ったも同然のことを、今日の席で言ったのだ。
また、そういえば、専務がそれを望んでいるのかというと、それは考えていなかったので、私は少しだけ後悔した。
社長が、恋愛について、あれやこれやと専務に指南することは、本当は専務には必要なことでありはしないだろうか。
本当はそれが二人のコミュニケーションの一部として機能していて、私はそれを奪い取るような真似をしたことになりはしていないだろうか。
「あの、専務。」
「はい。」
専務は自分からは希望を言わないものだから、私は私の価値観のみで、本当は彼にとって不都合なことをしてしまったのではないかと不安になった。
しかし、おそらく直球の質問をしても、「大丈夫です」との返答が来ることは分かっていたので、私は変化球を投げることにした。
「専務と社長は、どうしてずっと別々に暮らしているのですか?一緒に住んでも、不都合はないですよね?」
専務が私と暮らすために変えたと思われるものは、ベッドだけのようだった。
見回せば、その他の家具は、生活感はないものの、いくらか年数が経っているように見えるのだ。
それこそ、十数年くらい、彼が誰かの手料理を食べなくなった高校生のときくらいから、ここにあったのではないだろうか。
彼はそのときから、ずっとここに一人だったのでは。
「不都合がないわけでもなかったのです。」
「それって何ですか?」
「父と母は、別居しています。僕が高校生のときからです。」
「ええ、それはお聞きしましたが。」
「ですから、僕は父とは生活できないと思ったのです。」
私はこの話は、寝間着のまま、立ち話で終わらせていい話ではないと判断し、冷蔵庫で作っておいたお茶のボトルと、コップを二つ持って、彼をソファへと促した。