ダブルベッド・シンドローム
ソファに腰かけた専務の手に、お茶のコップを持たせた。
「どうしてお母さんと別居しているからといって、専務まで社長と離れなくてはならないんですか?」
「そうしなければ、僕が母から、父を奪ったことになってしまいます。」
私は、今ちょうど、専務の心の中のもやもやとした部分の正体が、明らかになろうとしているのではないかと思った。
彼の思考はやはり私の中にストンと落ちてはこないのだが、それでも謎が解けていく手応えがあった。
「そうなのですか?」
「母は最初は、父にも、僕にも優しい人でした。ただ、昔から、僕が跡取りとなることには反対していました。跡取りは自分の実の子供を、というのが、彼女の望みだったんです。しかし、マイとメイが産まれてからは子供ができず、母はだんだんと様子が変わっていきました。」
「ど、どんなふうに・・・?」
「男子が産まれず、僕が跡取りとして励むこととなり、母は僕を憎むようになりました。しかし母は、跡取りを産むことができなかったことを、もう亡くなっていますが、当時父の母に相当責められていたはずなのです。母にも、もう何もないんです。母も父としか繋がっていないのです。ですから、僕が父と暮らすことは、母から父を奪ってしまうことは、僕は避けたほうがいいと思ったのです。」