ダブルベッド・シンドローム
「・・・ごめんなさい、専務。一度に色々と質問してしまいまして。」
「いえ、大丈夫ですよ。」
専務は母親を追いかけているのだろう。
社長を優先している理由は、きっとそこにある。
社長を優先しているように見えて、それは全て、社長に纏っている母親の影を追っているだけだったのだ。
最優先しているものは、きっとそこなのだ。
「専務。」
私は、彼が膝の上に無造作に置いていた右手に、肩を寄せて、左手を重ねた。
専務は、少しだけ体を強ばらせたが、すぐに重ねた手に指を絡ませてきた。
「どうかしましたか。」
「専務、さっきので、最後の質問だったわけなのですが、やっぱりもう一つだけ、いいですか。」
「はい、どうぞ。」
「専務がこれから愛するのは、誰ですか。」
彼が答える前に、私は、私から彼に顔を寄せて、キスをした。
専務はそれを受け入れて、指が絡んだ手を強く握った。
「・・・菜々子さんです。」
離れた唇から漏れる吐息とともに、彼はそう言った。
「大丈夫です。私はどこへも行きませんし、私も専務を愛しますから。それには理由も都合もないですから、専務はただ、受け入れてくれればいいんです。」
「・・・はい。」
その夜、ダブルベッドで求めてきたのは専務からであった。
私は専務の味方でありたかったし、専務も、私の味方であってほしかったのだ。
おそらくこの夜は、それを確かめたのだと思う。