未来へのメロディー
「はぁ…。」

科学の授業は、全くと言っていいほど集中出来なかった。
遅刻してきて気持ちが浮わついていたという事もあるが、先程の女学生。きっと担任と一緒にいたということは芸術専攻クラスだろう。
どんな子なのか、なんの楽器なのか、小波の絵のセンスは一体何なのか…気になってしょうがない。考えていたら1時間なんてあっという間だ。

「真梨ちゃんが授業中寝ないなんて珍しい!」

「小波が絵を描くのは珍しくないね。」

「こなみが絵を描くのは科学だけだよ~。」

「そうだね。そのお陰で科学のノートだけダークマターだね。」

「なんで⁉ピカソも驚きの画力だよ?」

「確かにある意味驚くかもしれないけど…女学生の趣味で描く絵のゴールがピカソでいいの?」

「ちょっと趣味似てるなって思ったの!」

「確かに。独特な世界観、そっくりだよー。」

「だよね!上手だよね!」

やっぱり才能かな~と上機嫌な小波を尻目に見ながら廊下を歩いていると、誰かに後ろから肩を叩かれた。

「あの…ちょっといい?」

「私?」

同じクラスの橘 亜美だ。

「お願いがあるんだけど。」

「何?どうしたの?」

「本当だったら日直の仕事なんだけどね。」

「どうしたの~?今日の日直はこなみだよ!」

「うん、小波ちゃんも一緒に聞いてほしいんだけど、4限目のロングホームルームでこのクラスに来る転校生の紹介があるみたいなの。」

やっぱり。このタイミングで日直の仕事というとロングホームルームの話になるかと思ったけれど、まさか転校生だとは。
さっきの女学生だろうか。

「へぇ~!やっぱりあのこ転校生だったんだぁ!」

「え、転校生、見たの?」

「さっき廊下ですれ違った。」

「そうそう!かわいいこだったの~♪」

「そっかそっか!私は見てないんだけど、制服が違ったでしょ、他に転校生の話はないから、その子の事だと思うんだけどね 。で、お願いって言うのは3限目が終わった後に職員室にいる転校生を教室まで連れていってほしいの。」

女学生が着ていたのはブレザーで、この学校はセーラー服だ。
スカートが長い。校則が厳しいのだ。

「別に全然構わないけれど、なんで私なの?」

「ぃ、いやぁ…小波ちゃんと仲も良いし…に、日直明日だし!」

その場にいたかららしい。

「でも、真梨ちゃんで大丈夫~?初対面の印象最悪だよ!」

なんて事を平気な顔して言うんだこの子は。

「まぁ、大丈夫!連れていってくれるだけでいいから!ね?」

「ちぇ、こなみかわいい子と話したかったなぁ…」

「確かに。もとはと言えば小波の仕事でしょ?」

「今日フルート講習じゃない?ロングホームルーム出られないからさ。」

すっかり忘れていた。

「そう言えばそうだったね。」

「もう、真梨ちゃん気づかなかったの~?」

「生憎そんなことに頭を回していられるほど暇じゃないの。」

「そうだね、真梨ちゃんは転校生とお喋りする時の台本考えなきゃいけないからね。」

「あ~!確かにそうだね!亜美ちゃん頭いい♪」

反応するのも面倒くさくなって、本当に考え事を始めた。
結局は堂々巡りで考えていることは先程と変わらなかったけれど、不安になっていたって仕方ない。とりあえず今できることは、頭を使って疲れたので3限目にどうやって寝るかどうか考えることにした。

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