クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~


バッと勢いよく振り返ると、そこには笑顔の倉沢さんと、眉を寄せた八坂さんがいて……こちらの状況を知ってか知らずか、スタスタと近づいてくる。

「で、このひとたちは知り合い?」

にこりと営業スマイルを浮かべた倉沢さんを、いぶかしげに見ていた元彼たちだったけど。

「めぐ突き飛ばしてたのはおまえだな」

八坂さんを見るなり、ひるんだのが見て取れた。

ただでさえ背が高いから見下す形になるっていうのに、八坂さんはさらに顎を上げ睨みつけていたから。

逃がさないようにか、じっと睨んだまま、八坂さんが「倉沢、こっちの男だ」と元彼を顎で指す。
すると、「了解」と軽く言った倉沢さんが元彼の腕をぐっと掴んだ。

「あ……?」
「ちょっと痛いですけどすみませんねー」

倉沢さんが言うと同時に腕を捻りあげる。
元彼は顔を歪め「痛……っ、痛い痛いっ、やめろ……っ」と声を上げた。

あんな太い腕を、倉沢さんが捻って押さえている……。

一瞬のできごとに、なにが起きたんだろうと呆然としていると、隣に立った八坂さんが言う。

「こいつ、合気道の段持ってんだよ」
「そうなんだよ。ほら、俺って顔がいいから逆恨みとか八つ当たりとか多くて。高校の時に習得したの。護身術程度って思ってたら、案外筋がよくてさ。結構役に立ってる」

捻りあげたままの体勢で、倉沢さんが笑顔で言う。
片手で軽く押さえているみたいにしか見えないのに、元彼は苦痛を顔中に広げていた。


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