クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~
通りかかった人が集まりだし、遠巻きからざわざわと声が聞こえていた。
〝離せ〟〝痛い〟と繰り返す元彼に、倉沢さんはにこっと笑みを向ける。
「合気道は、本来、守りを基本としてるから、自分から相手を傷つけたりはしないんだけど……でも俺、途中で辞めちゃったからその辺の加減、よくわかってなくて。
お兄さんの答え次第では、一本くらい折れちゃうかもしれないから気を付けてね」
ニコニコと笑顔で言っているから余計に怖い。
元彼も同じように感じたようで、顔色をさぁ……と青くさせ、慌てて口を開いた。
「一本って……ふざけんなっ。事業団になんて報告すれば……」
事業団ってことは、なにかスポーツをしてるってことだろうか。
ラグビーかな。
「事業団? へぇ。だったら一生懸命、それ頑張ったほうがいいんじゃない? 元カノに付きまとって通報なんてされたら、そっちのほうが事業団に顔向けできないでしょ」
瞳に笑みを浮かべたまま倉沢さんが問う。
「で? どうする? 一本いっとく? それとも――」
答えなんて決まっていた。