クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~


〝もう絶対に近寄らない〟〝関わらない〟と約束した井村さんの元彼から、もしも約束を破ったときの処置として、事業団やら会社の連絡先を聞く。

それから倉沢さんが手を離すと、元彼と友達はすぐに背中を向けて逃げて行った。
捻られた腕がよほど痛かったのか、右手を押さえながら。

どんどん小さくなる背中を眺めながら、あんな太い腕をよく捻りあげていられたな……と感心する。
倉沢さん、いたって平均的な体格をしているのに。

集まっていた数人のギャラリーは、事が無事におさまったのを見届けると、それぞれ散っていった。

「あの……なにかありました?」
「ああ、もう終わりました。あ、でも一応。さっきそこで――」

コンビニから出てきた店長さんらしき人に、倉沢さんが事の経緯を説明する。

ぼーっとしながら、その様子を見ていて、隣から話しかけられた。

「瀬名さん、手、そろそろいいですか?」

井村さんに言われて、ようやく自分が井村さんの手をぎゅっと握ったままだってことに気付く。

片手で井村さんの手を、もう片方の手でグレープフルーツジュースを握っていた。
パックが変形してる。


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