クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~
「ああ、すみません」
「いえいえ。怖かったですもんね……。卓ちゃん、ああ見えてフェミニストだから直接暴力とかは振るわないんですけど、すぐ怖い顔するから嫌なんですよー」
「フェミ……え? 私、普通に突き飛ばされましたけど」
あんな殺気立ったクマみたいな見た目でフェミニストって言われても、信じられない。
本当だったとしても、それは可愛い子限定なんだろう。
井村さんと元彼がモメているところを見たときからずっと不穏な音を響かせていた心臓が、ようやくテンポを戻し、ホッと息をつく。
そこで、傍らに立つ八坂さんがやけに静かなことに気付いた。
どうしたんだろうと見上げた途端、ギャンときつい眼差しで貫かれ肩がすくんだ。
「相手見てからつっかかれって何度も言っただろーが! だいたい、なんで電話よこさないんだよっ」
怒りがいきなりトップギアレベルで、びくんとしてしまう。
だけど、こっちにも言い分はあるから負けじと見返した。
「あんな状況で電話なんて手にしたら、相手を逆撫でするだけです。それに、私からつっかかっていったわけじゃありません。
店長に助けを求めようとしたら、それより先に井村さんに呼ばれて、仕方なくです」
「だとしても、逃げるなりなんなりできただろっ」
「できませんよ。見たでしょ、あのガタイ。コンビニの店内に逃げ込むくらいならできるかもとは考えましたけど、失敗した場合、確実にタックルされて倒されます。
それこそ絶体絶命ですし。私だって、よく考えた結果、ああなってたんです」
そうだ。最善の道を探そうと努力はした。
だから口を尖らせていると、八坂さんは未だに気に入らなそうに顔を歪めたまま、はぁとため息を落とし黙る。
八坂さんが、納得いかなそうに髪をガシガシとかくのを見てから、井村さんに視線を移した。