クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~
「とりあえず、井村さんが無事でよかったです。もう顔見せないって約束してましたし、つきまとわれるようなことはないと思いますけど、もしなにかあったら警察に……」
「倉沢さぁん、怖かったですー」
話の途中だっていうのに、隣に立っていた井村さんが、店長に説明する倉沢さんに駆け寄る。
瞳のなかに浮かぶハート模様が見えるようだった。
さっきまで可愛い顔であんなに私を頼ってたのに……変わり身がすごい。
「倉沢さんってば、こんなカッコいいのにあんな武術まで……っ。惚れない理由がありませんし、私やっぱり諦めませんっ」
「ちょ……井村さん、説明中だから」
「もう、すっごく怖かったですー」
店長さんらしき人の制止も聞かずに、井村さんが倉沢さんの腕にすり寄る。
倉沢さんは助けを求めるようにこちらに視線を向けたけれど。
「倉沢、その子送ってってやれよ」
「えっ」
「じゃあ、お疲れ」
反論を受け付けずに手を上げた八坂さんが、私の肩を抱き歩き出す。
あまりの強引な腕に戸惑いながらも顔だけで振り返ると、倉沢さんと目が合った。
「あの、倉沢さんっ」
少し距離があるけど、そのまま続ける。
「井村さん、さっきの人たちに囲まれても、〝好きな人がいる〟って言い続けてました。すごく、怖かったハズなのに」
ガタイのいい男の人、ふたりに目の前に立たれたら、誰だって怖い。
そんな状況下で自分の意思を突き通すのは簡単じゃない。
それでも井村さんは、気持ちを曲げなかった。