クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~
「今日、広田さんはきてないんですね。預金課の吉川課長から、広田さんが出納の担当だって聞いたんですけど……どんな方ですか?」
本来なら、今日から広田さんにコーチする予定だったけれど、体調不良で今日はお休みだった。
吉川課長が、広田さんがお休みだってことを伝えてきたとき〝本当にまったく……〟というような表情を浮かべていたのが気になっていた。
まるで、問題児のことを言うような顔だった。
だから聞いてみると、北岡さんは「ああ〝定時の広田〟さんのことですね」と含みのある笑みを浮かべ、グラスに半分ほど残ったビールをあおった。
他のテーブルも、数人ずつのグループにわかれ、盛り上がっている様子が見てとれる。
「〝定時の広田〟……いつも定時に帰るから?」
「そう。もちろん、勘定が合わなかったりしたときは、残りますけどね。そういう非常時というか、絶対ってときじゃないとまず残らないんですよ。
自分の仕事が終わっていれば、周りを手伝おうとはせずにさっさと帰る……って他の女性職員が文句言ってます」
今日、出席している女性は、北岡さんと融資の方ふたり、そして私だけだ。
ここにいる人のことは言わないだろうから、〝他の女性職員〟っていうのは、今日来ていない、預金課の人を指すんだろうと判断する。
「それは、この会社ではあまりよしとはされていないんですか?」
自分の仕事が終われば、帰ったっていいんじゃないだろうか。
そう感じ聞くと、北岡さんは「いえ」と笑みを浮かべたまま答える。