クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~
電車に揺られ、「じゃあ」と下りようとすると、八坂さんも私と一緒に下りてきた。
遠慮したところで、聞き入れてはもらえないだろうと思い、そのままふたりで歩く。
夜だっていうのに、まだまだ暑い空気が肌にまとわりつく。
今夜も絶対に熱帯夜だ。
駅から離れ、周りが静かになったところで八坂さんが口を開いた。
「倉沢が、最近やたらと絡んでくる。何日か前も、〝七年間も連絡とらないような仲でしかない八坂さん、お先に失礼します〟とか挨拶されたし」
『八坂さんが高校卒業してからは、一度も連絡とったことなかったですし、先週、七年ぶりの再会を果たしたんですから。つまり、それくらいの仲ってことです』
倉沢さんと初めて話したとき、たしかそんな話をしたっけと思い出す。
なんとなく、そんな突き放した表現の仕方を八坂さん本人には聞かれたくなかったけど……事実だし、と胸を覆い始めた罪悪感を振り払った。
「ただ、構って欲しいだけじゃないですか? 倉沢さん、誰にでも人懐っこいですし」
適当に答えると、八坂さんが「にしても、〝それくらいの仲〟か……」と繰り返す。
一瞬で涙が落ちそうになり、堪えるためにぐっと奥歯を噛みしめた。
〝じゃあ、他にどんな説明をすればよかったんですか?〟
聞けない問いが、心にぎゅっと溜まっていく。
お互いに、顔を見ないままの沈黙が続いたあと、先に口を開いたのは八坂さんだった。
「倉沢となんかあるのか?」
突然の問いに顔を上げると、八坂さんは前を向いたまま目を合わせようとはしなかった。