クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~
「なにかって……ああ、この間のことですか? だったらあれは倉沢さんの悪ふざけです」
手の甲にキスしたことを言ってるのかなと思い答える。
すると「それだけじゃなくて」とすぐに返された。
「あいつ、やたらとおまえに構ってるだろ。さっきも口説かれてたし」
感情の含まれていないような声で言う八坂さんの横顔を見て、思わず笑ってしまう。
なに、そんなこと気にしてるんだろうって。
「あんなの、挨拶みたいなものですよ。倉沢さんって女性を見るととりあえず口説かないと失礼とか思ってそうですし」
「……イタリア人みたいなやつだな」
「少しだけ、倉沢さんと恋愛の話をしたんです。真剣な想いを寄せてくれる子に、軽い言葉で返すのはよくないって注意したら、それからちょっと懐かれちゃったみたいで。
いつか飲み会で言ってた〝お母さん〟みたいなことだと思います」
倉沢さんに構われている自覚はある。
でもそれは、本人がどう言おうと、恋愛感情ではない気がするからそう説明すると、八坂さんは「まぁ、なんとなく言ってる意味はわかる」と、困り顔で笑った。
ゆっくりと視線が重なる。
「めぐは、そこらの男より男前だし、母性っつーか、包容力があるから。甘えたい男はすげー惹かれるんだよな」
愛しいものでも見るように細められた瞳に。
自然と〝八坂さんは……?〟なんて問いがもれそうになった。
それをグッと耐えていると、まだぶつかったままの視線の先で八坂さんが続けた。
「俺は、誰が相手でも正面きってちゃんと相手して優しくするめぐを、俺だけは甘やかしてやりたいって思いが強いけど。
だから、おまえが俺にわがまま言うのも、小さなことでケンカになるのも、気持ちさらけ出してくれてんだってわかって、すげー嬉しかった」