クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~
井村さんは、大学に進み数年過ごしたあと、専門学校に入り直したらしい。
大学で学びたいことがなく、就職を考えたとき、どれもしっくりこなかったってことだった。
そして、なにがしたいのかをよく考えた結果、栄養士がいいと思い、行動に移したのが一年前。
学費を稼ぐために、コンビニでバイトを始めたのも、同じ時期だという話だ。
失礼ながら、もっと軽い感じの子かと思っていただけに、その事実は衝撃的だった。
短大にきた求人のなかから、なんとなくここがいいかなって程度で今の職場を決めた私よりも、よっぽどしっかりしているように感じた。
そう話したら、井村さんは「仕事を四年も続けてる瀬名さんのほうが私からしたらすごいです」と笑っていたけど。
そんな話をしたあと、井村さんは少し黙り……それからゆっくりと口を開いた。
「倉沢さんに、ハッキリ振られちゃいました」
井村さんの手には、ふたつめとなるティラミスが乗っていた。
駅が近いから、電車の音が定期的に響く公園。
じっと横顔を見てから、目を逸らした。
「そうですか」
「まぁ、今、すぐに倉沢さんと付き合いだしたりしたら、卓ちゃんがまたなにか言いそうだし、ちょうどよかったですけど。……あ、強がってるわけじゃないですよ! タイミング的に、まだ早いってだけで諦めてませんし」
明るい声で言う井村さんに、本当にタフだな……と驚きながら「そういえば、元彼はなにも言ってきませんか?」と聞く。
さすがに昨日の今日じゃ、まだ大人しくもしてそうだけど。
井村さんは、「ああ、大丈夫ですよ」と笑った。