クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~
「問題ないと思いますよ。むしろ、それをぶーぶー言ってるほうがどうかと、私は思ってるんですけど……まぁ、預金課は女ばかりなんで色々難しくて」
困り顔で笑う北岡さんが続ける。
「広田さん、周りに迷惑をかけるようなこともないし、仕事もよくできるんです。周りに文句を言われちゃうのは、もちろん、周りに問題があると思うんですけど、広田さん性格……というか、人当たりも関係するのかもですね」
「人当たり……」と呟くように言うと、横から八坂さんが言う。
「単純に気が強い上、無愛想って話だろ。あと、預金課のヤツらが〝役員の娘だからってデカい顔しててムカつく〟みたいなこと言ってたから、そういう妬みもあるんじゃねーの」
振り向くと、八坂さんはメニュー表を広げていた。
開いているページのなかに、トンカツやら生姜焼きやらという単語を見つけ顔を引きつらせる。
まだ肉料理を注文するつもりだろうか。
始まりからシメまで全部肉料理なんてありえない。
「役員……社長の下の立場にあたるんでしたっけ?」
「そう。社長の下に役員が六人。で、その下に専務やらなにやらだけど、そのへんよくわかんねーな。とりあえず支店内の上下関係だけわかってれば問題ないし」
「広田さんのお父さん、すごく偉い方なんですね」
八坂さんが広げているメニュー表に手を伸ばし、さりげなくページをめくる。
そして、目に留まったデザートのなかから、クリームあんみつを指さすと、八坂さんは「子ども舌」と笑った。