クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~
難しい操作じゃない。
それでも、普段、出納機に馴染みの薄い営業の人からしたら、戸惑うものかなと思ったけれど……八坂さんはタッチパネルを迷うことなく操作し、入金口に預り金を入れた。
硬貨と紙幣、それぞれ指定の位置に入れてから、入金ボタンを押し、金額を確認してから伝票に印字する。
結局、私の手伝いなんて必要なく操作を終えた八坂さんに、感心しながら言う。
「なんだ、できるんじゃないですか」
「まぁな。機械関係は得意だし。広田は、相変わらず定時帰りだけど、覚えられてんの?」
「覚えてますよ。要領もいいですし、入出金とか両替とか、日常の仕事のなかで必要な操作手順はもう覚えてます。精査も、たぶん大丈夫そうですし」
たぶん、私がいなければひとりでできるとは思う。
取説もあるし、北岡さんと協力すれば問題ない。
欲を言えば、あと一度くらい精査の操作を一緒にやって、作業内容を確認しておきたいなぁってくらいで、広田さんへのコーチは順調だ。
「ただ……広田さんや北岡さん以外の女性職員は、あんまりなので……そっちが少し心配ですけど」
最初こそ、広田さんが心配だった。
限られた時間内で覚えられるのかって。
でも、広田さんは残業こそしないけど、しっかりと覚えようって意思を見せてくれるし、実際に覚えてもいる。
だから、抱いていた心配ももうほとんどない。
逆に、入出金と両替作業だけしか教えていないのに、いつまで経っても覚えようとしない他の女性職員のほうが今は心配だ。
広田さんのことを、いつもああだこうだ悪く言っている人たちのほうが。