クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~
眉間に寄ったシワに、どうしたんだろうと不思議に思っていると、八坂さんは、おもむろに、手の甲を私のおでこにあてた。
あてた、というよりも、軽く追突された感じになり、びっくりする。
驚いたあと、別の理由で心臓が跳ねた。
触れられてる……と意識するだけで、おおげさなほどに反応する胸がうるさい。
八坂さんは「あ、悪い。こっちは金触ってたから。甲だと加減がわかんなかった」と説明した。
今までお金を触っていて手のひらが汚れているから、手の甲をあててきたって意味なんだろうけど……。
手の甲でも、体温はそれなりに計れるようだった。
八坂さんの眉間のシワが、また少し深まったから。
「おまえこれ、八度いってるだろ」
怒ったような低い声で言われ、平静を装って八坂さんの手をはがす。
「さぁ。計ってないからわかりません」
「いつからだ?」
誤魔化そうとしたけれど、真面目な目で見てくる八坂さんに気付いて諦めた。
「朝からこんな感じです」
「今すぐ病院行って計ってこい。吉川課長には俺から話しておいてやる」
すぐさま言われて、眉を寄せため息を落とす。
「みなさん騙されてますけど、病院ってとてもひどい場所なんですよ。私は騙されません」
今、病院に行きたくないから駄々こねてるわけじゃなくて本心だ。
私がこんなことを言う理由を知っている八坂さんは、呆れた顔をして私を見る。
「……おまえ、まだそんなこと言ってんのか」
「四肢を押さえつけられて注射されたトラウマは一生残り続けます」
幼稚園のころ、嫌だ嫌だって精一杯泣いたのに、看護婦さんも先生も、笑顔で私を押さえつけ、無理やり注射針を刺した。
笑いながらだ。サドだとしか思えない。
それからというもの、私は病気になっても意地でも病院に行っていない。
病院に絶対に行きたくないあまりか、インフルエンザにさえかかったことがないんだから、余程だ。